2001年1月リリース
寺田町ソロアルバム
「微熱の街」

[収録曲] 
【1】 少年
【2】 サイレン
【3】 マリーのタンゴ
【4】 チンピラ〜ベクトルバージョン〜
【5】 名もなき街角で俺たちは 名もなき者として出会った
【6】 微熱の街
【7】 TOGI〜微熱バージョン〜
【8】 旅立つ気配


[1] 少年

静かな朝
まどろむ薄明かり
語りかけてくる船の歌
まだ手垢ひとつない一日
浜辺に立つ少年は
犬を連れて波の先見てた
キラキラ光る海の道
どこへだって行けると思えた
早く大人になりたくて

駆けだしてゆく
砂の上の足跡
波がすぐに消して
それでも良いんだ

田舎町の古い映画館の
片隅で夢を育ててた
スクリーンの彼方から届く
誘いの言葉受け止めて

一陣の風
胸に嵐を巻き
少年を旅に駆り立てる
駅の名前覚えていったよ
宝物みたいにね

走る空に浮かぶ
わけも知らぬ悲しみ
そばによりそう孤独
かすかな予感

夜の声に耳を澄ませれば
やがて見えてくる
........


[2] サイレン

サイレン サイレン
救急車 パトカー
絶え間なく起きてる事件のテーマソング
ベットの上の時計 午前3時
さっきやっと眠ったばかり
うるせー街だなまったく
だけど好きで住んでんだよ 田舎にゃ
もうきっと暮らせない 病んだ都会人
しょせん田舎者のくせに

サイレン サイレン
誰かが傷ついたり
誰かに傷付けられたり 誰かを
傷付けることで傷ついたりしてる
寝苦しい夜
眠ろうともしない街には
コンビニエンスのやたら白い灯り
明るすぎる蛍光灯
雑誌立ち読みの背中

サイレン サイレン...

サイレン サイレン
俺には関係ないけど
もしかしたら知ってるヤツが
事故ったかもそれとも急病
まるで可能性ないわけじゃない
突然なんでこんなこと
柄にもなく思いついたのか
いつの間にか降り出してた雨
タイヤにからみつく音
やけに耳につく

サイレン サイレン
見えない涙 聞こえない叫び
他人のシナリオ
エキストラも近頃安くはないんだ
ヒロイン ヒーロー気取りで
繰り返しの街のドラマ
再放送ばかりでまたかよ
リセットボタン押しても何も変わらない
ループしてるサイレン サイレン...


[3] マリーのタンゴ

夕映えに見とれて 道に迷ってしまった
見知らぬ通りを抜けて 街のページひとつめくると
突然広がる海 それはもちろん幻だけど
そんな風にお前は オレを虜にしてしまったのさ

踊ろうマリー バラとユリ
眠れマリー オレの肩によりそって

12月の夜風に 凍えたオレの10本の指
暖めてくれる お前のふたつの乳房
幾千の想いが やがてひとつにはじけて
オレの背中に 五つの爪痕残す

踊ろうマリー バラとユリ
眠れマリー オレの肩によりそって

お前は瞳を閉じて 深い夜の波に揺れてる
オレはお前の海で光る 紅い紅い灯台
お前の波のリズムで オレの光は点滅するのさ
どんなアルコールよりも お前はオレを酔わせてくれる

踊ろうマリー バラとユリ
眠れマリー オレの肩によりそって 


[4] チンピラ 〜ベクトルバージョン〜

使い古された夢
ねじの切れてる古時計
アスファルトを渡る風
ごちゃまぜの街の匂い

壊れたジュークボックス
捨てられるのを待ってる
雨に打たれる前に
盗んでどこへ逃げよう

捨て猫の濡れた眼ざしを
ふりきれぬ
とるに足らないチンピラ

どしゃ降りの雨の中
カーニバルへと急ぐ
俺達の難破船
街の迷路うろうろ

お前のストッキング
破れてたって構わない
お前は笑ってるし
俺はお前に触っていられる

お前「夢で会えたら嬉しいね」って
そんな一言で
酔っぱらえるチンピラ

やがて満月のメダル
スモッグ越しに昇る
あれはなんにももたない
俺達の勲章なのさ

きどった街のルージュ
アルコールでふき取って
荒れたその唇に
無理矢理キスをするのさ

風喰らい
真夜中の底で
夢紡ぐ
ロマンチストのチンピラ


[5] 名もなき街角で俺たちは名もなき者として出会った

名もなき街角で俺たちは
名もなき者として出会った
「夢」だとか
よく言うやつさ

場所なんか何処でもよかった
俺たちがいるとこがそこだから
「歌」だとか
「酒」だとか

そう言えばあんなやつもいた
風に吹かれて消えたけど

「俺は去年のカレンダーさ 手つかずで古びていくだけ」
やつの口癖だった

かっこつけてるだけなんだと
俺たちは思ってたものさ
やつが消えちまうまで

ビリヤードの腕はたいしたもんだった
あの店のジュークボックスなら
よく知ってるはずさ

あの娘の姿も見かけない
「アメグラ」に出てきそうな娘だった
やつの横にいつもいたな

いかしたやつのバイクだって
あの娘がケツにまたがれば
彼女の部品みたいに見えた

グラスの向こうに真実があればなぁ...
俺はまだ負け犬には見えやしないだろう?

名もなき街角で俺達は
名もなき者として出会った
昔話みたいだけど...


[6] 微熱の街

その年の初めての夏の予感がする夜
薄暗い安酒場 煙る灯りの下で
拾ったその恋は熟れた果実の味

理由ならいくらでも思いつけるものならば
はじめから理由など無いのかもしれない
空にしたグラスならそれを知るだろうか?

夜中のショーウィンドーの中の
マネキンたちの内緒話
あの男を見てみろよ
つぎはぎだらけのハートで
また恋におちてる

その年のはじめての秋の風が立つと
その恋の甘い蜜 俺の胸の中で
少しづつ 少しづつ
苦い毒になった

最終電車の去った空っぽのホーム
たたずむ男の後ろ姿はまるで
帰り道忘れた迷い犬のようだ

ネオンもあらかた消えた街
でも夜明けまではまだ間がある
いったいどこへ行けばいい?
電話ボックスもめっきり減った
街は微熱が下がらない


[7] TOGI 〜微熱バージョン〜

俺はただ酔っ払っていただけかもしれない
夜の街は時々魔法を使う
そんな風に思える事ってないかい?
「酒のせいさ」って言われりゃそれまでだけど

よく知ってる筈の道 角を曲がると
まるで見覚えのない街並
いったいこれはどういうわけだい?
酔いどれた網膜に映るイルミネーション
なんだかこれから映画でも始まるみたいだな

首筋に感じる夜の息吹
それがまるで合図であるかのような
街のあちらこちらから
街灯の光の届かないところ
そう いくつもの
いくつものGOHSTたちが

次々と立ち上がり語り始める
アスファルトに埋められた都市の記憶
もしかしたらここは海の底だったのかも
まだ誰にも語られていない物語

スモッグにかき消された星たちのしずく
誰かが歌うのが ほら聞こえないか?
熱い血をかきまわす夜のリズム
気がつけば目の前に一人の女

スカートを翻し踊るのはフラメンコ
コンクリートの舗道に靴音響き
俺の胸はイツしか高鳴り
女の瞳にネオンの反射
踊る腕が描く放物線
君はどこから来たんだ?

臆病者のしわくちゃな翼を
やさしく広げあたたかな息をかけ
「あなただって跳ぶこと、できる筈よ」って
ささやいた

彼女の声が俺の耳の奥でまだ響く
俺にとってのそれが確かな現実(リアル)
そう 胸が疼き痛み 震え
はじめる


[8] 旅立つ気配

ちんけなエアコンまわすより
窓を開け放て
汚れた空気の中にも
旅立つ気配が

オーオーオー
街の風
海の風をよべ
もう何処にでも
いけるよな気分

冷蔵庫の食い物を
全部たいらげて
最後のビールで乾杯
旅立つ気配だ

オーオーオー
街の風
海の風をよべ
もう何処にでも
いけるよな気分

オルガン弾きは定年で
席は空いたまま
礼拝堂の煤払い
旅立つ気配だ

オーオーオー
街の風
海の風をよべ
もう何処にでも
いけるよな気分